若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 そう言うと、会長は顔を背けた。
 沈黙――話は終わったようで、私は深々とお辞儀をし、その場を立ち去ろうとした。
 でも、その前に。

「瑞生さんと一緒に、また伺ってもいいですか?」
「親族だろう。好きな時に来い」
「はい」

 私は瑞生さんの妻として認められた。
 自分の目で見極めるために、私と瑞生さんを引き離し、一対一で話したのだ。
 あの黒い真っ直ぐな瞳は、瑞生さんとよく似ていた。
 だから、怖いとは思わず、むしろ、その目を見て、微笑んでしまった。
 庭から屋敷の中へ戻り、渡り廊下を歩いている時だった。

「おい。吐け」

 黒ヤギ流の低いドスのきいた声が聞こえてくる。
 そして、瑞生さんのピリピリした声も。

「美桜はどこだ?」
 
 二人が黒服のSPを脅し、胸ぐらをつかんでいるのが見え、走っていって止めた。

「まっ、待ってください!」
「美桜! 無事だったか?」
「美桜さん、嫌がらせはされませんでしたか?」
「はい。とてもいい方でした」
「それはない」

 二人同時に答えた。
 解放されたSPは額の汗をぬぐって言った。
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