若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「会長とのお話が早く終わってよかった……。このまま、全員、ボコボコにされていたら繁松(しげまつ)さんに叱られるところでした」
「最初から美桜とだけ話すつもりだったのか」

 険しい顔をし、瑞生さんは言った。

「別件でお話がある場合は出直してくるようにと、おっしゃられていました」
「会長は瑞生さんや八木沢さんに会いたいんですよ。もう少し顔を出してあげたらいいじゃないですか」
「嫌だ」

 二人は声を合わせて答えた。

「また伺う約束をしましたから、近いうちに来ましょう?」
「……また?」
「会長がお喜びになると思います」

 八木沢さんは嫌そうな顔をし、瑞生さんは近いうちにか……と小さく呟いた。

「瑞生さんと家族になるなら、私は会長とも親族になるんです。仲良くなりたいと思ってます」

 私が言った『家族』という言葉に、瑞生さんは頬を緩ませた。

「そうだな」
「だから、また一緒にきましょう」
「わかった」

 あっさり頷いた瑞生さんを見て、八木沢さんは溜息を吐いた。

「すでに尻に敷かれてますね。ここにいても疲れるだけです。もう帰りましょう」
「そうだな」

 長居は無用とばかりに、八木沢さんは玄関に顔を向けた。
 先に二人が歩いて行ったけれど、中庭の向こうに人影が見えた気がして、私は去る前にお辞儀をした。
 瑞生さんを連れて、また来ますと伝えるために――
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