若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「でも、秘書室に異動なんですよね?」
「そうなの。八木沢さんが沖重の社長に就任されるから、その代わりの人が必要なのよ」

 沖重グループの立て直しを任せられるのは、八木沢さんしかいないと瑞生さんが言っていた。
 先に八木沢さんが沖重に異動し、人事からまず動かす。
 大幅な人事異動は秋人事によって行われる。
 それに伴って、宮ノ入グループでも人事異動を行い、海外支店からの異動も考え、沖重立て直しのために引き抜いた人材を補充するとのこと。
 沖重には優秀な人材の補充が急務と、二人が話していた。
 私の異動は、すでに総務部へ新しい人が配置されていたから、問題なく行える。
 けれど、この人事で一番堪えているのは、八木沢さんだった。
 なにしろ、瑞生さんと離ればなれになるのだ。
 早急に立て直し、戻りますと言っていた。
 無理しなければいいけど。

「社長秘書の八木沢さんが沖重の社長ですか。大変そうですね」
「ええ。秘書を選ぶの大変で……」

 木村さんの言う通りで、八木沢さんが求める有能な秘書が見つからなかった。
 すでに秘書を選ぶ段階でつまづいている。
 有能な秘書というだけなら、宮ノ入本社にはたくさんいた。
 実際の問題は能力的なことじゃない。
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