若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 瑞生さんなら、もっと美味しいお店のパウンドケーキを知っているはずなのに、これでいいのかなと思いながら、切り分けた。

「八木沢さんもどうぞ」
「ありがとうございます」

 なんだか、二人の機嫌がいい。
 切ったパウンドケーキを皿にのせ、二人の前に並べると、私に仏のような笑顔を向ける。

 ――なに、その悟り顔。こういう顔の時は、要注意なのよね。

 二人はどこか似ていて、やっぱり兄弟だなと思う。

「またなにか良くないことをしたんじゃないですか?」
「そんなことないですよ」

 八木沢さんが紅茶を一口飲む。
 その穏やかな様子に、私は確信した。
 
「ちゃんと言ってください! 瑞生さん!」
「直真じゃなくて、俺?」
「だいたい八木沢さんが、なにかする時は瑞生さんが裏にいますから!」

 私だって、学習するんです。
 瑞生さんは私から目を逸らし、抹茶のパウンドケーキをフォークでつつく。
 私の厳しい目に、パウンドケーキを口に運べず、とうとう降参した。

「美桜が支払ったお金だが、あれは全部戻ってくる」
「えっ?」
「闇金からの借金分ということでしたよね?」

 涼しい顔で八木沢さんは言った。

「ま、まさか、その闇金って……」
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