若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「金融会社を一時的につくって、お金を貸しました。利子ってすごく高いでしょう?」
「高いですね。倍になるくらいって聞いたことが……」
「お金は巡って、全額返ってくるよう仕掛けましたから、大丈夫です。むしろ、プラスになるかもしれませんね」

 あの感謝の美しいシーンが台無しだった。
 どおりで瑞生さんも八木沢さんも、あっさり引き下がったと思ったら、すでに仕掛けた罠は発動し、終わった後だったというわけ……

「それ詐欺じゃ!?」
「さー、どうでしょうねー」
「どうだろうなー」

 私が財産を処分するって言い出すことも、瑞生さんは予想していたのだろうけど、すっかり騙されてしまった。

「そうそう。甥っ子の銀行員は左遷されたらしいですよ。まあ、無能が左遷されるのは当然のことですが」
「八木沢さん……。名前くらい覚えてください……」

 いつの間にか、継母の実家である銀行にも手を回し、痛手を与えている。
 一臣さんは今後、昇進は望めないだろう。

 ――とんでもない二人だわ。

 無邪気にパウンドケーキを食べているけど、この外見に騙されてはいけない。

「そうだ。美桜」
「はい?」
「直真の秘書になれそうな社員はいないか?」

 さっきまで絶好調だった八木沢さんの表情が曇った。
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