若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「申し訳ありません。まったく思い出せません。なにかの間違いだと思います」

 八木沢さんにお辞儀をし、立ち去ろうとした。
 それを阻んだのは、八木沢さんより身長が高く、背後から影のように現れた黒ヒョウ。
 公園で会ったお疲れ気味のサラリーマンだった。
 襟にご飯粒がついている。

「おはようございます。瑞生(たまき)様」
直真(なおさだ)。三十分で起こせって言っただろう?」
「健康を保つための睡眠時間を考えたら、あと一時間は起こさないつもりでした」
「おちおち、昼寝もできないな」

 黒い目が八木沢さんを睨む。

「直真が勝手に呼びつけて悪かった」
「い、いえ。社長だったんですね……」

 ご飯粒をとってあげたいけど、うっかり動こうものなら、投げ飛ばされるんじゃないかっていう緊張感があった。
 
 ――なんだか、この二人。とんでもなく黒いオーラを感じるんだけど!

 二人セットで並べてはいけない気がした。

「やっぱり知り合いだったんですね。よかった。これで万事問題なく、話を進めることができます」
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