若き社長は婚約者の姉を溺愛する
香り(1)
 土曜日の朝、会社が休みで本当によかったと思ったのは、働きだして今日が初めてだ。
 社長室からの眺めも、黒ヒョウの人が社長だったことも忘れようと思った。
 そして、公園でのことも――

「公園……」

 無防備に眠る姿、おにぎりを食べた時に笑った顔を思い出し、乾いた布巾を握って、しばらく動けなかった
 宮ノ入(みやのいり)から申し込まれたお見合いは、私に伝えられることはなく、父も継母も話題を避けているように思えた。
 きっと心の中では、なんとしてでも私ではなく、梨沙(りさ)と結婚させたいと考えているはずだ。
 私にお見合いの話が来ただけで、家の中はピリピリしているのに、これがもし、結婚なんて話になったら、どんな嫌がらせが待っているかわからない。
 ゾッとして、背筋が寒くなった。

「忘れよう……。それに断ったんだから、向こうは私に興味がなくなったはずよ」

 ――宮ノ入グループの社長ともなれば、相手に困ってないだろうし。
 
 現に先輩たちは襟のご飯粒だけで、盛り上がっていたのだから。
 そう思いながら、掃除をしていると、梨沙がキッチンに入ってきた。
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