若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「今のはなに? 目の錯覚かも……?」

 私の目の錯覚じゃない証拠に、玄関の窓ガラスから、ばっちりベンツが見える。
 玄関のドアをもう一度開けると、私を見て、不機嫌そうな顔をしている。

「おい、挨拶もなくドアを閉めるなよ」

 呆れた様子でこっちを見てくる。

「な、な、なにしにきたんですか?」

 借金の取り立てより、威圧感がある。
 まだヤクザのほうが可愛いのではと思うくらいだ。
 次にドアを閉じたら、喉元に食らいつかれるかもしれないと思って、ドアを数センチ開け、顔半分で向こう側を見る。

「おにぎりのお礼を持ってきた」
「お礼? お礼なんて結構です。あれはっ……」

 私の声が聞こえたのか、継母の声がした。

「美桜さん、なにかの勧誘なの? うまくことわってちょうだいよ!」

 出かける準備をしている二人は、まだ玄関にまで出てこないけど、いつ出てくるかわからない。
 私は息を吸い込み、小声で宮ノ入社長に言った。

「すみません。裏に回ってもらってもよろしいでしょうか?」

 こんなこと社長にお願いするのも、おかしな話だけど、継母に見つかると面倒なことになる。
< 28 / 205 >

この作品をシェア

pagetop