若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「誰が宗教の勧誘だ」

 私の言い訳を聞いていたようで、とても不満そうだった。

「社長に対して、とても失礼な真似をしているとわかってます。でも、私の立場上、これが精一杯なんです。それに、沖重は梨沙と社長を結婚させたいと思っていて、私には一切、社長のことは知らされてません」
「俺が申し込んだ相手は君だ。名前もきちんと告げた」

 社長に非がないことくらいわかっていた。
 八木沢さんを代理に立て、私のお見合いの話を沖重の家に持ってきた。
 相手が私でなかったら、公園で一目惚れしたという話も納得できたと思う。

「私のどこがよかったのか、わかりません」
「寝顔」
「えっ!? 寝顔って、いつも眠っているのは自分じゃないですかっ!」
「いつも見てたわけだ。俺の寝顔を?」
「ちっ、違います!」

 否定しても笑われて、私の嘘はあっさりバレてしまった。

 ――これは恋じゃないって思いたいのに。

 頭の中で危険信号が点滅し、そこから先に行けば、なんとか平穏を保っていた私の生活が、すべて一変してしまうと告げていた。
 逃げようとした私に気づき、とんっと壁に手をついて、私を逃がさないよう捕獲する。
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