若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 そして、後悔した。

 ――どうして、こんな危険な人を家に入れてしまったのだろう。こうなる可能性もあったのに、私は冷静さを失っていた?

 人と関わらないようにしてきたのに、なぜ私は近づいてしまったのか。
 それに、久しぶりに人とこんな至近距離にいるような気がする。

「昨日は逃がしたが、今日は逃がさない」

 この人は眠っている時は、あんなに穏やかな顔をするのに、実際は獣だ。
 狙った獲物の喉笛を食いちぎり、滅茶苦茶にできる人。
 それだけの力が、この人にはある。

「み、宮ノ入の力で……私を愛人にでもするつもりですかっ!」
「愛人?」

 驚いた顔で私を見る。

「新しいパターンだな。お見合いを申し込み、結婚したいと告げて、そこからの愛人? 謎の思考パターンだ」
「違うんですか?」
「どこの世界に、父親に『娘さんを愛人にください』と申し込みに行く男がいるんだ?」
「どこかにいるかもしれません……」
「いない」

 私に短くそう言って顎を掴み、不敵に笑う。
 
「少なくとも俺は遊びで付き合う時間があるほど、暇な男じゃない」

 その顔は宮ノ入グループの社長だった。
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