若き社長は婚約者の姉を溺愛する
思えば、初めてこの人を見た時から、目はいつも彼を追っていた。
人を惹きつける力を持っている。
このまま、私を撫でる大きな手にすがれたら、きっと楽になれる。
そう思った瞬間、頭の中に梨沙と継母が言っていた『お食事会』が思い浮かんだ。
幸せなのは今だけ。
今まで、ずっとそうだった。
私を気にかけてくれる近所の人も、友人も、全部奪われた。
親しくなれば、親しくなるほど、傷は深くて、なかなか立ち直れない――社長から目を逸らし、私は椅子から立ち上がった。
「お茶を淹れますね」
「直真が食べたっていうパウンドケーキを食べたい」
八木沢さんは社長に、お茶菓子の内容まで報告しているのか、おにぎりを渡した時と同じ顔をして、社長は言った。
「すみません。パウンドケーキ、今はなくて。今日の朝、クッキーを焼いたので食べますか?」
「じゃあ、今度」
「今度なんて……」
「ん?」
「わ、わかりました! 今度っ……!」
またキスをされては困ると思い、約束をしてしまった。
「楽しみだな」
――絶対わざとに決まってるっ……!
人を惹きつける力を持っている。
このまま、私を撫でる大きな手にすがれたら、きっと楽になれる。
そう思った瞬間、頭の中に梨沙と継母が言っていた『お食事会』が思い浮かんだ。
幸せなのは今だけ。
今まで、ずっとそうだった。
私を気にかけてくれる近所の人も、友人も、全部奪われた。
親しくなれば、親しくなるほど、傷は深くて、なかなか立ち直れない――社長から目を逸らし、私は椅子から立ち上がった。
「お茶を淹れますね」
「直真が食べたっていうパウンドケーキを食べたい」
八木沢さんは社長に、お茶菓子の内容まで報告しているのか、おにぎりを渡した時と同じ顔をして、社長は言った。
「すみません。パウンドケーキ、今はなくて。今日の朝、クッキーを焼いたので食べますか?」
「じゃあ、今度」
「今度なんて……」
「ん?」
「わ、わかりました! 今度っ……!」
またキスをされては困ると思い、約束をしてしまった。
「楽しみだな」
――絶対わざとに決まってるっ……!