若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 社食の献立パターンを暗記しているのか、なんのメニューかわかるらしい。
 宮ノ入グループに入社するだけでも、なかなかの競争率。木村さんはそんな競争を勝ち抜き、入社してきただけあって、きっとすごい能力を隠し持っているに違いない。
 
「木村さんの記憶力って、なんか変な方向に特化しているのよね……」
「あの子、いい子だけど、変わってるわよ」
「わかる。人目を気にせず、かつ丼を堂々と食べるあたりが、社内恋愛の可能性をゼロにしているわ」

 私より上の先輩たちが、そんなことを言いながら、ため息をついた。 
 
「社内恋愛なんて、面倒って思っていたけど、今は別よ!」
「そうそう! 今の宮ノ入グループには、雲の上とはいえ、宮ノ入社長と八木沢さんがいらっしゃるのよ!」
「二人は独身っ!」

 きゃあきゃあ騒ぐ先輩たちをしり目に、私は気配を消して、そっと出て行く。
 木村さんが言ったとおり、外は晴天で爽やかな風が吹いていた。
 公園に入ると、車の音が遠のき、木々の葉擦れの音がする。
 ベンチの上に木陰を作り、揺れていた。

「いない……」

 社長がいると思って身構えていたのに、二つ並んだベンチは空席だった。
 拍子抜けしたというか、なんだか、ちょっとがっかりしている自分がいた。
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