若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 それに、私がおしゃれをして、楽しむなんてしてはいけない気がする。
 早足で会社を出て、スーパーに立ち寄る。
 ちょっとでも家事がおろそかになったら、会社を辞めろと言われてしまう。
 会社を辞めたらそれこそ、永久に私はあの家から出られなくなって、死ぬまでこき使われるだろう。
 だから、私は毎日が必死だった。
 こんな生活に、出会いがあるわけがなく、頭の中は夕食の献立でいっぱいだ。 

「冷凍庫にホワイトソース、ベーコン、ほうれん草とコーンがあったはず……」

 異母妹の梨沙(りさ)の希望はグラタン。
 継母と梨沙の好みは、昔と違って、今ならわかるから、急に言われても作れるよう冷凍庫に材料をストックしてある。
 水曜日の特売品である卵を購入するのを忘れない。
 食費は父から渡されていたけど、無駄遣いがないか、継母がチェックをするのだ。
 だから、特売品の日になにか買っておくと、家事に疎い継母は、きちんとやっていると思って、なにも言ってこない。
 そういう事情もあって、特売日だけは忘れないようにしている。
 仕事帰りの人が一気に増え、スーパーは混雑し始め、レジを済ませて外へ出る。
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