若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「ふ、普通につけてください!」
「直接つけると香りが強すぎて、なにか言われると困るだろうと思って、気をつかったんだが?」
「そ、それは……ありがとうございます……」

 うなじじゃなくてもいいような気がしたけど、確かに継母や梨沙(りさ)に勘づかれては困る。
 二人の顔を思い出し、胸の中に冷たいものが広がった。
 忘れてはいけない。
 宮ノ入社長を梨沙の婚約者にしようと、父が裏で画策している。
 もし、こんなことが知られたら、どんな目にあうかわからない。

「すみません……。私、もう昼休み終わるので、戻ります」
「一緒に戻る」

 これ以上、私に近づいてはいけないのに、社長は距離を縮める。
 私の心に、自然に入り込んで、いつの間にか気づいたらそばにいる。

「私から離れて歩いてください」
「社長に言うことか? それ」
「社長だから、言っているんです」

 一社員と社長が、並んで歩くなんておかしい。
 私たちが、一緒にベンチから立ち上がると、同じ香りがすることに気づいた。
 不自然すぎる香りの一致。

「私たちは立場が違い過ぎます。暮らしている環境も……」
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