若き社長は婚約者の姉を溺愛する
眼鏡の向こう側
 夕食の片づけを終え、リビングの新聞を片付けている時に、私が目にしたのは、沖重(おきしげ)の株価だった。
 継母が株価を確認していたのか、新聞が開いたままにされていた。
 
「また沖重の株価が下がってる……」

 沖重グループの経営の悪化には、継母も無関係ではいられない事情がある。
 継母の実家の銀行には、継母の兄と甥が働いているため、これ以上、頭を下げてお金を借りたくないのだ。
 実家を継いだ兄夫婦に嫌みを言われるらしく、お義姉さんに疎まれて辛いとかで、実家へ行くたび、機嫌が悪く周囲に当たり散らしていた。
 新聞を古新聞のところへ入れていると、外から車の音がした。車の持ち主がわかるのか、継母は嫌な顔をする。

一臣(かずおみ)さんが来たわ。働き者ねぇ。でも、うちに顔を出すなんて、お金をさっさと回収して出世したいのね」

 甥の一臣さんがやってきたようで、継母は父を呼ぶ。父は一臣さんに会いたくないのか、渋って書斎から出てこない。
 最近、特に一臣さんは足しげくやってきて、沖重の経営状況について話していく。
 一臣さんは身内のような振る舞いをみせ、当たり前のように、インターフォンを鳴らさず、普通に家へ入ってくる。

「おばさん、おじさんはいる? 今日の株価は見ましたか?」
「え……ええ……まあ……」
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