若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 ――何度も同じことを繰り返せば、誰だっておかしく思うのに。

 私が一臣さんに好意を持たないから、こんな真似をしているのだろう。
 慌てて、眼鏡を拾い上げ、かけ直してキッチンへ逃げた。
 だから、一臣さんが来たときは外に出るか、気配を消して違う場所にいるようにしているのに、今日は油断してしまった。

「一臣さん。会社の話でしょ。リビングへ来てちょうだい」

 一臣さんは継母と一緒に、リビングへ入っていった。
 度々、家に来てお金の話をしているところをみると、少なくとも仕事はできるようだった。
 そして、父が愛人の家でなく、家にいるのは珍しい。
 よっぽど大事な話なのだろう。

「え? 宮ノ入グループの社長とお見合い?」

 一臣さんの驚愕する声が、明るいリビングから聞こえてきた。
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