若き社長は婚約者の姉を溺愛する
なにも持たない私と、なんでも与えられてきた梨沙。
 眼鏡から見える世界は、歪んで見え、ぎゅっと唇をきつく結んだ。
 
 ――私が悲しくなるなんて、おかしいわよ。元々、宮ノ入社長と私の住む世界は違っていた。そんなことわかっていたはずなのに、今さら過ぎるわ。

 恋人になるつもりがないくせに、傷ついてどうするのか。
 ヒリヒリした頬の痛みに気づき、冷凍庫から保冷剤をとりだし、タオルに巻いて頬を冷やした。

「痛い……」

 鏡を見ると頬は赤くなり、指の痕がついていた。
 でも、私は泣けない。
 痛みには慣れている――だから、私は泣けないのだ。
 どんなに辛くても。
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