若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 自宅は宮ノ入グループ本社から、乗り換えなしの電車一本で帰れる距離。
 私はこんな地味だけど、私の家は高台の高級住宅地にあった。
 宮ノ入グループほど巨大な会社ではないけれど、沖重(おきしげ)グループという会社経営をしていて、世間ではそこそこ名の知れた企業だ。

「ただいま帰りました」

 私が家へ入るには、表からではなく、裏口からと決められている。
 それなのに、継母は私が帰ったと知り、わざわざ裏口までやってきて、いつもと変わったところがないか、チェックする。

「あら、いつもより遅いじゃない」

 スーパーに寄ってきた時間分、遅くなっただけなのに、それを咎めるような口調で言われる。
 私のレジ袋に卵が入っているのを見て、理由がわかったらしく、それ以上は聞かなかった。

「すぐに夕食を作りますね」
「梨沙が帰る前に済ませてよ」

 継母は新しいネイルを満足そうに眺め、私に言った。
 家族の会話ではなく、雇用主と家政婦。
 私が卵を冷蔵庫へ片付けていると、継母はリビングへ戻り、ソファーにゆったり腰かけて雑誌を開き、テレビをつけ、私からすっかり興味を失っていた。

「……よかった」
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