若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 そんな私を見て、社長は不満そうな顔を見せる。

「なにか……?」
「どうして直真(なおさだ)が八木沢さんで、俺は社長なんだよ」
「どうしてって、社長は社長ですから」

 それも大企業宮ノ入グループの社長である。
 自覚があるはずなのに、その行動は至って自由。最後の砦である八木沢さんは、『身分に見合った相手を』というポジションのはずが、社長至上主義の精神をお持ちのようで、まったく止める気がない。
 社長を微笑ましい顔で眺めている。

瑞生(たまき)って、名前で呼べよ」
「お断りします。誰かに聞かれたら、大変なことになりますから」
 
 私の気持ちを察してか、八木沢さんはバックミラー越しに、私たちを見て言った。

「別れたら、会社に居づらくなるからですよね」
「……そうです。社長は私に気軽に話かけますけど、社長が飽きた後、私はまた一人になるんです。その時、私を守るものはなにもありません」
「飽きる? 俺が?」
「人の気持ちは変わるんです」

 父がそうだった。
 継母と梨沙に、私の悪口を吹き込まれて、だんたん私に冷たくなった。
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