若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 母との結婚も政略結婚で、愛のない結婚をした父。それで生まれた私は、家庭で居場所もなく、継母からは恨まれて、異母妹からは嫌われている。
 
「確かに変わる。でも、それはいい方にも変わる。そうだろ?」

 社長の顔をじっと見つめた。
 私がネガティブなことを言ってもこの人は、それをねじ伏せて、明るい場所へ連れていってくれる人。だから、私はこの人のそばにいてしまうのかもしれない。
 黒い瞳が、私を映しているのが嫌ではなかった。目を逸らさずにいると――

「おい! その頬、どうした?」

 私の頬に指の痕が残っているのに気づいた社長は、驚き、私に触れようとした。

「騒ぐほどじゃないです。うっすらとしか残ってませんから」
 
 社長の手を持っていたバッグでガードし、さりげなく自分の顔を隠す。

「指の痕ですか。それ、叩かれた痕ですよね?」
「ちょっと昨日、失敗をしてしまって」
「眼鏡も割れていて危ないぞ。眼鏡に度数が入ってないだろ。外して――」
「やめてください!」

 眼鏡に触れられて、思わず強く拒絶してしまい、社長は戸惑った表情を浮かべた。

「あ、悪い」

 私の反応に驚き、パッと手を離す。

「すみません……。眼鏡がないと不安なんです」
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