若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 夕飯は作り置きのハンバーグがメイン。ご飯は予約してあるし、ハンバーグに添えるラタトゥイユも冷蔵庫に仕込んである。
 今日はなにも作らずに、盛り付けて出すだけだから、余裕があった。

「電池を買いに家電量販店に寄るくらいね」

 仕事の癖か、沖重の家の消耗品まで把握して、予備を置いて切らさないようにしてしまう。
 急ぎではないけど、会社を出て、近くの家電量販店に立ち寄った。
 家電量販店のエスカレーター横に鏡があり、自分の姿が映る。私が最初に見たのは、眼鏡。
 そっと指でなぞると、昨日あったヒビはなく、滑らかな感触が、私の心を浮かれさせた。

「お礼はなにがいいのかな……」

 相手は宮ノ入グループの社長で、欲しいものなら、なんでも手に入る。
 私が思いつくようなものは全部。
 そう思ったら、プレゼントひとつが、ものすごい難問に感じた。
 
 ――でも、なにかお礼の品をあげたい。

 おにぎりを渡した時の笑顔を思い出して、少し笑ってしまった。 
 小さく笑って、電池を手に取った私の耳に、テレビのニュースが聞こえてくる。
 売り物のテレビから聞こえた『宮ノ入(みやのいり)』という単語。
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