若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 ◇◇◇◇◇

 こんな時、普通の人なら、スマホを使って連絡するのだろうけど、私は持っていなかった。
 持っていたとしても継母にスマホをチェックされて、自由に使えないからだ。
 うっかり知り合いなんかを登録しようものなら、知り合いが嫌がらせを受ける。
 
 ――不自由で面倒な女。

 そんな私と誰が付き合いたいだろう。
 世の中には、もっと可愛くて明るくて、自由に生きている女性がいる。
 たとえば、梨沙みたいな。
 昨晩、帰りが遅かった継母と梨沙は、まだ眠っているらしく、朝食はそのままになっている。
 二人が起きる前に、家事を済ませ、家を出た。
 社長と会わないように、いつもの道を通らず、遠回りになったけれど、他の駅を利用した。
 昨日、梨沙が帰ってきたのは遅かった。
 それに酔ってたようで、楽しそうな声が、私の離れた部屋まで聞こえてきた。
 あの後、レストランでお食事会を開いたのだろう。
 テレビに映っていたホテルのレストランで――不安になった時の癖で、眼鏡のフレームに触れた。
 でも、前の眼鏡じゃないからか、気持ちは落ち着かず、気持ちも憂鬱なまま。
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