若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「宮ノ入グループの社長と結婚よ? 嬉しいに決まってるわ」

 朝から社内は対応に追われ、大騒ぎになっていた。
 受付の社員が、来客から社長の結婚について聞かれ、困惑しているという話も聞こえてくる。
 それでも、仕事に集中していれば、大丈夫。
 集中していれば、余計なことを考えずに済む。
 お昼になり、さっと席を立ち、公園ではなく、ランチルームに入った。
 ランチルームも予想通り、社長の結婚話で持ちきりだった。

「役員の秘書室にいる子から、聞いたんだけど。結婚って、沖重側が勝手に言っているだけらしいわよ」
「テレビにまで出たのに?」
「常務って、社長の親戚でしょ? 常務が結婚式はいつ頃ですかって尋ねたら、結婚しないって答えたって」   
「でも、沖重グループに行った営業の話だと、結納の日取りが決まったって言ってたけど」

 どれが本当の話なのかわからないくらい広まった噂話。
 でも、はっきりしていることもある。

「会見を開いたから、とりあえず、二人は婚約したんじゃないの」
「そうね」

 婚約したことだけは事実。
 ランチルームに来たのは失敗だったかもしれない。
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