若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 コピー機の横には柱があり、丁度、死角でしゃがんで隠れたら、見えなくなってしまう。 
 ちょうど物陰になり見えない。
 課長に私がどこにいるか、聞いているけど、木村さんの仕事を私がしているとは思ってなかったのか、わからないと素直に答えていた。
 終業と同時に席を立ち、会社の裏口から出ると、逃げるように帰った。

 ――継母たちが関わらないなら、私はまだ社長と一緒にいられたかもしれない。でも、今はもう無理。

 梨沙が婚約したいと望んでいるなら、なおさらだ。
 過去に嫌がらせを受け、離れた人たちは、二度と私に近寄らなくなり、ひどい時は恨み言を言われた。

『お前に関わったせいで!』

 今も鮮明に思い出せる。
 体が弱かった母が死んだのも、私を無理に産んだせいだと、継母に言われた。
 私が迷惑をかけずにいられる唯一の方法は、関わらずにいることだった――
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