若き社長は婚約者の姉を溺愛する
『聞いていらっしゃるかしら？　瑞生(たまき)さんは宮ノ入のトップなんですからね。宮ノ入グループの社長夫人ともなると、それなりの家のお嬢様では、困るというお話なの。会長もとても心配なさっているのよ。瑞生さんは会長のお孫さんですものねぇ。私の息子と同じで』

　マシンガンのようにずっとしゃべり続けている。
　電話の相手は、宮ノ入グループの常務夫人だ。　
　父の弟は現在、常務の地位にいる。二人の間には、息子が一人いて、俺の従弟にあたる。
　その息子もまだ独身だというのに、なぜか年齢もさほど変わらない俺の結婚相手を探してやろうという話らしい。
　だが、俺も直真(なおさだ)も興味がまったくなかった。

「直真。あと三十秒以内で、その無駄な電話を切れるか？　無駄なエネルギーを消費している」
「確かに無駄ですね」

　俺がそう言うと、車のスピーカーから流れる攻撃的な甲高い声に対し、直真は優しい口調で言った。

「聖子さん」
『あら。直真さんもいらっしゃったの？』

　俺の時とあきらかに違う声の高いトーンは、好意とも受け取れるが、どこか相手を見下した声だった。
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