若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 女子大を卒業した梨沙は、父が経営する沖重グループに入社した。
 宮ノ入グループとも取引があり、ちらりと耳にした噂話によると――

『わがままな社長令嬢が沖重に入社した』
『社内の雰囲気が悪くなった』

 ――と、あまりよくない評判だった。
 もちろん、私が沖重グループの社長の娘とは、誰も気づいていない。
 地味な姿に暗い性格。
 梨沙と私が似ていないのもあるけれど、沖重の苗字を名乗っていても、人事でさえ、気づいていなかった……
 二人が沖重の社員について、文句を言っている間に、グラタンが焼き上がった。 
 焼けたグラタンやサラダ、バケットをダイニングへ運び、並べる。
 継母が好きなワインを用意して、綺麗に並び終えたら、静かに私はキッチンに戻った。
 私の食事はキッチンで食べるように言われていて、キッチンの隅にある丸椅子に座り、一人で夕食を食べる。
 しんっとした私一人のキッチンに対して、ダイニングのほうは賑やかだ。
 明るい声と楽しそうな雰囲気で、帰ってきた父親と継母、梨沙は食事をし、私はそれを眺めながらの食事。
 これが、毎日続いている。
 
 ――別世界みたい。
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