若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 ――八木沢さんにとって、家族は瑞生さんだけ。信じられるのも。

 八木沢さんは私に背中を向け、去っていった。
 しばらくすると、瑞生さんがやってきた。
 機嫌が悪く、利き手である右手を見つめている。
 
美桜(みお)

 私の姿が目に入り、険しかった表情をやわらげた。
 その顔を見た瞬間、ホッとして涙がこぼれた。

直真(なおさだ)め。怖がらせ過ぎだ」
「違うんです。八木沢さんのせいじゃなくて……。ごめんなさい。ずっと避けてしまって……私……傷つけてしまいました」

 いつもと同じ、変わらない態度に安心したのだ。
 私のことをどうでもよくなったとか、嫌いになったとか、そんなことばかり考えていたから――

「いい。わかってたから」

 きっとそれは嘘だ。
 だから、あんなに八木沢さんは怒っていたのだ。
 寝不足気味なのか、少し疲れているように見えた。

「直真、怖かっただろう?」

 レストランの奥の個室に案内され、座るなり言われた。

「別人かと思いました」
「あれが本性だぞ。言葉遣いが丁寧な間はセーフだ」

 完全にアウトだったと思うけど、あれがセーフなら、本気で八木沢さんが怒った日には、どんな目にあわされるのだろうか。
 ぞっとして、体が震えた。

「俺と出会った時、直真はヤクザに片足つっこんでいた。宮ノ入に無理矢理、連れてきたのは俺だ」
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