若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「そういうことは早めに言ってください」
「味方には優しいぞ。たぶんな」

 最後の『たぶん』が気になったけど、席に案内され、その席からの眺めを見たら、なにも言えなくなってしまった。
 ホテルは港沿いにあり、遠くにはビル群、近くには橋が見えた。その橋の上を豆粒くらいの車が走っていく。
 普通の人であれば、なんでもない風景に、私は静かに魅入っていた。

「美桜。飲み物は?」
「えっ……えっと……」

 飲み物のメニューを渡されたけど、たくさんあって選べない。
 まるで、子供みたいにたどたどしい私を見て、瑞生さんは呆れたと思う。

「ゆっくり選んでいいから、好きなものを」
「は、はい……」

 悩んだ末に、安心して飲めそうなオレンジジュースを頼んだ。
 子供みたいだと思ったけど、これしか堂々と自信を持って言えなかった。

 ――でも、選べた。 

 普通のオレンジジュースが出てくると思っていたら、オレンジの味がしっかりする搾りたてのオレンジジュース。
 
「美味しい……」
「ここはよく宮ノ入の会合で使うレストランだ。慣れておいたほうがいいと、直真は考えたんだろう。良くも悪くも、あいつは俺の一番の味方で、悪人にもなる」
 
 難しい存在で、複雑な関係性。
 でも、八木沢さんは瑞生さんのために生きているのだと思った。
 それを瑞生さんもわかっている。
 
< 88 / 205 >

この作品をシェア

pagetop