若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 同じ世界にいるはずなのに、あちら側が遠くに感じる。
 目を閉じ、私は思う。
 いつか、私はここを出て、自由になったなら、そこには幸せが待っている――そう思い込むようにしていた。
 それだけが、私の心の支えだから。
 
「梨沙の結婚相手は、慎重に選ばないとな。実は今日、とてもいい話がきたんだ」
「本当に? この間みたいに、私のことを馬鹿にする男の人はやめてね!」
「ああ、梨沙。もちろんだよ」

 梨沙の相手は、沖重グループの未来に関わるとあって、父は相手選びには慎重になっていた。

『自分の失敗もあるから、梨沙には愛する人と一緒にさせたやりたい。もちろん、家柄も問題のない相手をな』

 ――私が生まれたのは、失敗だったの?

 私がいるのに、そんなことを父は言う。
 それに、継母は家柄で反対されたのではなく、人柄で反対されたのだ。
 今は亡き、沖重の祖父母は、家柄などどうでもいいから、優しい女性と結婚してほしいと父に言ったのだ。
 けれど、父は結局、継母と結婚した。

「お父様、本当!? 私、着替えてくるわ!」
「今から、いらっしゃるの?」
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