若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 エレベーターを使い、地下の駐車場まで降りると、そこにいたのは、黒塗りの車と運転手さんだった。
 八木沢さんの姿はない。

「瑞生様。お食事はお済みですか」
「ああ。仕事に戻る」
「かしこまりました」

 瑞生さんにエスコートされ、車の後部座席に乗る。
 ホテルの駐車場を出て、大きな道に出ると、運転手さんは瑞生さんに言った。
 運転手さんは屈強そうな男の人で、黒いスーツを着ている。
 瑞生さんより一回りくらい体が大きい。

「珍しいですね。直真さんでなく、私をお呼びなるとは。拗ねているんじゃないですか?」
「謹慎させた」
「ははは。また暴走してしまいましたか」
「ああ」

 瑞生さんはため息をついた。
 あのヤクザモードに切り替わったことがあるのは、一度や二度の話ではないらしい。

「瑞生様は唯一の肉親ですからね。大切に思っているんですよ」
「祖父もいる」
「会長と直真さんは合いませんからねぇ」

 赤信号のタイミングで、運転手さんは黒いサングラスをずらし、私を見つめた。

「はじめまして。宮ノ入家のSPを勤めております繁松(しげまつ)と申します」
「は、はい。沖重(おきしげ)美桜(みお)です」
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