若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「瑞生様は彼女を隠さないおつもりで?」
「もう祖父にはバレている。隠す意味がない」
「さようですか」

 繁松さんはそれ以上、なにも言わなかった。
 会長と瑞生さん、両方の味方でもあり、パイプ役。二人からの信頼は厚いらしい。
 でも、繁松さんは瑞生さんを『様』と呼び、八木沢さんを『さん』と呼んだ。
 兄弟なのに、なぜ扱いに差があるのかわからない。
 それに名字も違う。

「あの……。八木沢さんは瑞生さんのお兄さんなんですよね?」
「そうだ。俺とは母親が別だ。高校生になるまで、俺は兄の存在を知らなかった」
 
 なんでもないことのように、あっさりと瑞生さんは答えた。

「直真の母親は宮ノ入が嫌で、子供がいることを隠して別れた。その後、住む場所も変えたせいで、俺の父親は直真の存在をずっと知らなかったらしい」

 繁松さんはすべて知っているらしく、そうだとうなずいた。

「直真さんの母親の姓が八木沢です。認知される前に亡くなられたため、戸籍上は他人です。会長は養子にするから、宮ノ入を名乗るよう言ったんですけどね……」

 八木沢さんはそれを断ったのだろう。
 後継者が二人いれば、ややこしくなる。
 それも、八木沢さんのほうが兄。
 瑞生さんの敵に絶対回らないと決めているから、ずっと八木沢の名前を名乗っているのだ。

「それでも、直真は俺の兄だ」

 瑞生さんは躊躇なく、きっぱりと言い切った。
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