若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 八木沢さんがミルクティーが入ったティーカップをテーブルに置く。
 二人は私に詳しい説明をしてくれない。 
 一企業の社長と令嬢の結婚が、大袈裟に取り上げられたのは、沖重グループの経営難が発端だと思っていた。
 株価の上昇は落ち着きを見せ、最近では、報道の熱が冷め、再び下がりつつある。
 一時的なドーピングにしかならなかったようだ。

「そろそろ始業時間なので失礼します」
「美桜。昼休みにな」
「はい。また昼休みに公園で」

 約束をして、私は社長室から出る。
 ここから、エレベーターを使いたいところだけど、社長室があるフロアに出入りできる人間はそうそういない。
 エレベーターを使うと、点滅するランプで私が社長室があるフロアから降りてきたとバレてしまう。
 そのため、非常階段で何階か降りてから、その階からエレベーターを使うようにしていた。

「……いけないことをしてるみたい」

 悪いことではないはずなのに、やっぱり後ろめたい。
 瑞生さんと梨沙の婚約発表の件が、私の心に引っかかっているからだ。
 もし、私が付き合っていると知ったら、継母は今まで以上の嫌がらせを私にするだろう。
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