怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「それで、そこから先のことは少しも思い出せないの?」
外の空気に触れてすっきりしたのか頭のズキズキは引いていて、気分も少し良くなった。そうなるとお腹がすいてきて、私はふわふわのスクランブルエッグをひと口食べた。
その美味しさに感動していると、目の前でトーストをかじっている隠岐先生が尋ねてくる。休日なのにきっちりとしたスーツ姿なのは、午後から相談の依頼が一件入っているからだそうだ。
私は、口の中のものを飲み込んでから先ほどの隠岐先生の問いに答える。
「えっと……バーで隠岐先生とお酒を飲んだ記憶が少し」
「そこでの会話は? 俺とどんなことを話したのかは覚えてる?」
「……すみません。覚えてないです」
お酒を飲みながら随分と長いこと話し込んでいた気がするものの、いったいなにについての話をしていたのかをはっきりと思い出すことができない。
やはり私はそこで酔い潰れて記憶を飛ばしてしまったのだろう。
情けない自分に思わずため息がこぼれると、隠岐先生がさらに尋ねてくる。
「他になにか思い出せることは?」
「他にですか」
「ぼんやりとでもいいから覚えていることはない?」
「えっと……」