怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
とっさに周囲の様子を窺ってしまう。近くに人はいない。少し離れた場所に恋人か夫婦かわからないけれど男女の二人組がいるものの、こちらに背を向けているので今の私たちは彼らの視界には入っていない。
見られはしないと思う。でも、こういう場所でキスをするというのはどうなのだろう。やはりためらってしまう。
そう思った私は悠正さんにキスの断わりを告げようと再び彼に視線を戻した。すると、不意に唇に生暖かな感触を覚え、大きく目を見開く。
「……!」
唇を塞がれたまま、するりと右手を絡め取られ、後頭部に手を回されるとぐっと引き寄せられる。
キスをしていいのか確認しておきながら、どうやら悠正さんは私の答えを聞かずに実行してしまったらしい。
「――ごめん。しちゃった」
唇が離れてから、まるでいたずらが成功したかのように悠正さんがにっこりと微笑んだ。
一方の私は突然のキスにぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、なにも言葉が出てこない。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
そんな私の右手を握ったまま悠正さんがゆっくりとした足取りで歩き出す。
「好きだよ、優月」
「えっ」
不意に彼が振り向いて告げた言葉に、先ほどのキスの余韻でぼんやりとしていた私の意識が一気に引き戻される。
今、好きって言われた?