怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「それだと、俺の言葉も覚えてないよな」
「言葉?」
「いや、覚えてないなら別にいい」
隠岐先生はそう言ってソファの背もたれに背を預けると、片手で前髪を少し乱暴にくしゃりとかきあげた。「昨夜のことだけど」と、話を切り出す。
「簡潔に説明すると、小野坂さんがバーで酔い潰れたんだ。起こしても起きないから俺のマンションに連れて帰ることにした。本当はきみの自宅に送り届けるのがよかったんだろうけど、俺は小野坂さんの自宅の住所を知らないし、きみも自分の住所を俺に伝えられる状況ではなかったから。とりあえず俺の家に連れて帰るのがいいと思った」
「そうだったんですね。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
やはり私は酔い潰れてしまったのかと激しく落ち込む。真面目だけが取り柄のはずなのに、まさかそんな失態をしでかす日がくるとは情けない。
「俺のマンションに着いてから、小野坂さんを寝かせてあげようと思って寝室のベッドに運んだんだ。そのタイミングできみが目を覚ましたんだけど、そこでちょっといろいろあって……」
「いろいろ?」
「いや、それについては別にいい……」
そう言った隠岐先生の視線が不自然に逸らされる。
こほんとひとつ咳払いをしてから、再び視線を私に戻して話を続けた。