怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「……あ」
スクランブルエッグから母を連想した瞬間、ふと大事なことを思い出した。
私は慌ててバッグから携帯端末を取り出し、昨夜からずっと落としていた電源を入れる。起動したばかりの端末には大量のメッセージと着信が残っていて、送り主は全部同じ人物から……。
そのとき手の中でぶるぶると端末が震えた。さっそく着信がきたらしい。画面に表示された名前を見るなり、自然と重たいため息を落としてしまう。
「隠岐先生、すみません。少し電話をしてきます」
「どうぞ」
一言告げてから席を立ち、私はお店の外に出た。すぐに端末を耳に当てる。
「――もしもし、お母さん」
《優月!? やっと繋がったわ。あなた今どこでなにをしているの。昨日の夜からずっと連絡しているのにどうして出ないのよ》
電話が通じるなり早口でまくしたてる母の金切り声に、私はいったん端末を耳から外した。その間も私を心配する母の声が絶え間なく聞こえてくる。
しばらく聞き流していたものの、ひときわ大きな声で《優月、聞いているの⁉》という母の苛立った声が聞こえて、私は再び端末を耳に当てた。
「うん、聞こえてるよ。心配かけてごめんなさい。でも、大丈夫だから」
《なにが大丈夫なの。ずっと心配していたのよ。連絡も取れないから、もしかして優月がまたあのときみたいな事件に巻き込まれたんじゃないかって……」