怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
その理由が見つからずに困惑していると、不意に伸びてきた隠岐先生の手が私の頭にぽすんと乗った。そのまま優しく撫でられる。
「乗りかかった船だ。責任持って付き合うよ。ひとまずこれから小野坂さんの自宅へ向かおう。その前に会計を済ませてくるから待っていて」
爽やかにそう告げて、隠岐先生が店内へと戻っていく。その背中が扉の向こうに消えるのを私はぽかんと眺めていた。
しばらくすると隠岐先生が戻り、私の右手に自身の左手を絡めて歩き出す。そのあまりにも自然な行動に思わず反応するのを忘れてしまったけれど、手を繋がれているのだと気が付いた私は一気に焦り始めた。
「お、隠岐先生。この手は……」
「ん? これから小野坂さんのお母さんの前で恋人のふりをしないといけないだろ。そのための雰囲気を今から作っておこうと思って。嫌だった?」
「いえ、そういうわけでは……」
繋いだ手を持ち上げた隠岐先生に、私は小さく首を横に振った。
嫌なわけじゃない。ただ、どうして突然手を繋がれたのかわからなくて戸惑っただけ。そして恥ずかしい。