怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「もしかして、隠岐先生?」
その瞬間、さっきよりも少しだけ鮮明に昨夜のことを思い出した。
慰労会のあと、バーのような場所で一緒にお酒を飲んだのは私の隣で眠っているこの男性――隠岐悠正先生だ。
彼は、私が事務員として働く『隠岐総合法律事務所』に所属する弁護士のひとりで、昨日の慰労会の主役でもあった。隠岐先生が長期に渡り抱えていた案件が無事に終了したので、その‟お疲れ様会„が所員一同によって開かれたのだ。
そのあと隠岐先生に誘われて彼の行き着けだというバーに移動してふたりでお酒を飲んだ……というところまでは思い出すことができる。
けれど、私の記憶はそこでぷっつりと切れていた。
次に思い出すことができたのは、このベッドに押し倒された私の上に隠岐先生が覆い被さり、熱を孕んだ瞳に見つめられながら深い口付けを落とされているところで……。
私は、改めて室内の様子をぐるりと見渡してみる。ホテルというよりかはおそらく誰かの自宅。この場合だと隠岐先生のだろうか。
その瞬間、私の顔からさっと血の気が引いていく。
どうやら私は隠岐先生と一線を越えてしまったらしい。