怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
断片的ではあるけれど、体を重ねたときの情景を思い出すことができる。
なにより先ほどから重たくだるい体とじんわりと痛む下腹部が、昨晩の情事が現実なのだとはっきり証明していた。
どうしてこんなことになっているのだろう。隠岐先生と体を重ねるに至るまでの一番肝心な部分を思い出すことができないので、この状況が少しも理解できない。
きっとバーでお酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまったのかもしれない。そのせいで記憶の一部を飛ばしてしまったんだ。
「どうしよう……」
自分の失態に途方に暮れてしまう。
よりにもよって相手は同じ職場で働く隠岐先生。今は寝ているけれど、彼が目を覚ましたときにかなり気まずい状況だ。
どうしよう。もう本当にどうしよう。
「……うん、帰ろう」
私はここからこっそりと逃げることに決めた。
逃げたところで隠岐先生と一夜を共にしてしまった事実は消えないけれど、とにかく今はここにいたくない。目を覚ました隠岐先生と気まずい対面をするのだけは避けたかった。