怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
逃げると決まれば行動は早いほうがいい。
重だるい体をなんとか動かし、ズキズキと痛む頭に耐えながら、私はそっとベッドを抜け出る。散らばっている自分の衣服を集めて身に着けると、近くにバッグを見つけてそれを手に取った。
隠岐先生を起こさないようにそっと歩きながら部屋の扉を目指す。物音ひとつ立てないよう慎重に進み、ようやくドアノブに手を掛けたときだった。
「――待った。どこ行くの?」
あと少しでこの部屋から出られると安堵したところで、突然、背後から声を掛けられた。驚いた私の肩がビクッと跳ね、足の動きがぴたりと止まる。
油の切れたロボットのようなぎこちない動きで振り返ると、寝ていたはずの隠岐先生がいつの間にか目を覚ましていた。
枕に背を預けて座りながらこちらを見ている彼はやはり衣服を身に着けていない。引き締まった上半身が目に飛び込んだ瞬間、私は恥ずかしさから慌てて視線を逸らした。
隠岐先生の眠っている間にこの部屋から逃げる予定だったのに。どうやらその作戦は失敗に終わってしまったらしい。