怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「着替えてくる」
私の頭から手を離した悠正さんが隣をすっと通り過ぎていく。そのまま廊下を進み自室に入ると静かに扉を閉めた。
『たった一晩だけど優月を俺のものにできた特別な夜だったから』
悠正さんから貰った花束を両手に抱えながら私は玄関に立ち尽くす。頭の中では先ほどの言葉が何度も再生されていた。
いったいどういう意味なのだろう。
あの夜のことはお互いにお酒に酔った勢いで行われた行為だったはず。でも、悠正さんはそれを特別な夜だったと言う。
そのまましばらくその言葉について考え込んでいたら、いつの間にか着替えを済ませた悠正さんが部屋から出てきてしまった。
「――優月。まだそこにいたのか」
いまだに花束を持ちながら玄関に立っている私を見つけて、呆れたように笑っている。
「こっちにおいで。その花束も早く花瓶に入れてあげないとかわいそうだ」
「あ、いけない。そうですよね」
私は手元の可憐な花束たちに視線を落とす。
せっかく入籍のお祝いに悠正さんがプレゼントしてくれたものなのだから、枯らしてしまうわけにはいかない。できれば長く咲き続けて、普通の夫婦とは少し違う私たちの新婚生活を見守ってもらいたい。
私は花束を大切に抱えながら廊下を進み、リビングの扉を開けて待っている悠正さんのもとへ駆け寄った。