怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

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 私が事務員として勤務する『隠岐総合法律事務所』は都内でも有数の大手弁護士事務所だ。

 隠岐先生はそこの所長の息子で、年齢は私よりも十個上の三十五歳。法科大学院終了後、超難関と言われる司法試験に一発合格したエリート。

 事務所に所属している弁護士の中ではまだ若手だけれど、法曹界の重鎮と呼ばれる父親譲りの鋭い思考力と正確な判断力、そして巧みな交渉術を持ち合わせ、数々の案件を解決させてきた所内きっての敏腕弁護士だ。

 その高い実力から依頼者や顧問先からの信頼も厚く、所内の中でも主戦力として活躍している。

 そんな隠岐先生が約一年半にも渡る裁判を勝訴という形で締めくくったのはつい昨日のこと。

 世間も注目していた裁判だけあり、判決の第一報が夕方のニュースで伝えられると、事務所内には歓声が上がった。なにせ当初は隠岐先生側が劣勢だと思われていた訴訟に見事なまでの勝利をおさめてしまったのだから皆の喜びも大きい。

 隠岐先生のための慰労会が始まったのは事務所の営業時間終了後の午後七時で、ケータリングサービスを利用してオフィスの共有スペースで開かれた。

 おそらく、どうしても外せない用事のある人以外はほとんど参加していたと思う。

 もちろん私も参加したのだけれど、それも終わりに近付いた頃、慰労会の主役である隠岐先生に誘われてふたりでこっそりと事務所を抜け出した――

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