怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「あ、あの……」
私は折り畳み傘を片手に握りしめながら、隣に立つ男性に声をかける。
「なにか?」
いきなり見ず知らずの女性に話しかけられたからだろうか。不審そうに振り返った男性の視線と声が冷たい。少しだけ怯みながらも私は持っている折り畳み傘を恐る恐る差し出した。
「これ、よろしければ使ってください。本当はこっちの大きい傘をお貸しできればいいんですけど事務所のものなので。私の折り畳み傘でよろしければ、どうぞ」
男性は、私と折り畳み傘を交互に見てから「いいの?」と確認してきた。そんな彼に私は折り畳み傘をずいっと突き出す。
「お急ぎのようだったので使ってください」
「本当にいいの?」
「はい。私、傘を二本持っているので大丈夫です」
「それじゃあ遠慮なく。ありがとう」
少し迷ったあとで男性が私の手から折り畳み傘を受け取った。
「きみはどこの事務所の子? ここにいるってことは弁護士事務所の子だよな。事務員?」
「はい。隠岐総合法律事務所のものです」
「隠岐……」
私が勤務先の事務所の名前を答えた途端、目の前の男性はなぜか苦虫を噛みつぶしたような顔になった。