怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「隠岐って、あの隠岐だよな……。悠正は元気?」
「えっ」
男性から悠正さんの名前が出たことに驚いてしまう。知り合いなのだろうか。どういう関係かはわからないものの、襟のバッジからしておそらくこの男性も弁護士なので繋がりがあってもおかしくはない。
元気?と尋ねられたので「はい」と答えると、目の前の男性の表情がさらにわかりやすく不機嫌になった。
「なんだよ。傘を貸してくれるなんて随分と親切な子だと思ったら、隠岐のところの事務員か。あっ、ちなみに俺と隠岐は親友ね」
「……親友?」
どう見ても先ほどからの男性の表情や言葉から悠正さんとはあまり親しいような仲には感じず疑いの眼差しを向けてしまう。
「俺、鏑木っていって弁護士してるんだけど、きみは?」
「小野坂です」
「小野坂さんね。傘、ありがとう」
鏑木と名乗った男性が慌てたように視線を腕時計に落とした。
「俺もう行くけど、この傘は今度ちゃんと返すから。それじゃあ」
早口でそう言うと、鏑木さんは私の折り畳み傘をさして雨の中を走り去ってしまった。