怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「あっ、旧姓で名乗っちゃった」
鏑木さんの姿が見えなくなった頃ふと気が付いた。
悠正さんと入籍をしたばかりなので‟隠岐„という新しい名字にまだ慣れず、うっかり旧姓を名乗ってしまった。けれど、おそらく問題はないだろう。
雨は先ほどよりも降り方が幾分か弱まっているように感じる。これなら帰れるだろうか。
エントランスホールを出ると、私は事務所から借りた大きな傘をさして歩き出した。
*
この日はほぼ定時通りに業務を終えて事務所を出た。
その頃にはもうすっかり雨は止んでいたけれど、道路にはまだ水たまりが残っている。晩ご飯に必要な食材を買い足すためにスーパーに寄ってからマンションに帰宅した。
もともとは悠正さんがひとり暮らしをしていたここは地上四十八階、地下一階からなる高級タワーマンション。私たちの部屋は最上階からひとつ下の階にある。
間取りは3LDK。悠正さんの寝室と書斎があり、空き部屋になっている一室を私の部屋にしてもらった。