怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
《あら、偶然ね。お母さんの今日のお夕食も鮭なのよ。優月と一緒に暮らしていた頃のくせでつい二切れ入りを買ってしまって。明日のお母さんの朝食も鮭かしらね》
そう言って、母はしんみりとした様子で言葉を続ける。
《優月はもう結婚してこの家を出たのにね。ずっとふたりで暮らしてきたから、突然ひとりになってお母さん寂しくて》
「お母さん……」
そんなことを言われてしまうと、なんだかこちらまでしんみりとした気持ちになってしまう。
私と母は長いことふたり暮らしをしてきた。父はすでに亡くなっていて、残された母と私は父の分までしっかり生きようとふたりで力を合わせて生きてきた。そんな私も結婚をして家を出たため、実家にひとり残された母は寂しいのだろう。
母の束縛があんなにも嫌だったのに。今の母を思うとあの家に戻った方がいいのではと思ってしまう……。
《そういえば、優月。悠正さんはもうお仕事が終わって家にいるのかしら》
ふと聞こえた母の声に先ほどの考えを慌てて振り払った。
悠正さんと結婚して、ようやく母から自由になれたのだから、母のことを考えるのはやめよう。