きみと、どこまでも堕ちていきたい
『…高彦さん、今日待ち合わせに来なかったの』

お姉ちゃんが小さなか弱い声でつぶやいた。

『え…なんで?』

『子供が熱を出したから、って』

ああ…

それは、お姉ちゃんの立場だと文句を言えない。

『わかってる、さすがに分かってるよ。
高彦さんには家族がいるし、そちらを優先するのは当たり前だって』

『お姉ちゃん…』

『こういうとき、思い知らされるよね。

どれだけ想っても、こんなものを貰っても、私は高彦さんの1番じゃないって…1番にはなれないって』

左手の薬指に光る指輪をどこか寂しそうな眼差しで見つめ、頬から一筋の涙が伝った。

涙は、床に散らばる秋桜の花びらの上に零れた。

『奥さんと別れるまで、気長に待つって決めたのになあ…』





いま思えば、
お姉ちゃんの歯車はこのときから狂い始めていたのかもしれない。
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