8月25日(後編)
「そういえば、編集の仕事に就いたってケビンたちから聞いた。夢叶えててすごいよ」

ビールを飲みながら向けられた瞳からそらす。

「夢…だったのかは未だにわからなくて、流れで気づいたら今の仕事に就いてた、って感じかな」

「それでもあの時は編集の仕事がしたかったんだよね?」


あの時…

慧くんから出た言葉に記憶を蘇らせる。

わたしに編集者という仕事を口にしたのは慧くんだったもんね。

「編集の仕事は想像以上に大変だけど、やり甲斐は感じてるかな。躓くことも多いけど…。それより慧くんは?なんの仕事に就いてるの?」

そういえば慧くんがなんの仕事をしているのか聞いたことなかったな。

そんなことを思いながら慧くんに視線を向ける。

「俺ね、夢は持っててもやりたい仕事とかは考えてなかったんだよね」

「…というと?」

「学生の頃の夢は、外国で英語を学ぶこと…でも、それはあっさりって言い方は違うかもしれないけど、案外簡単に叶ってさ」


ジョッキを見つめながら言葉を並べていく慧くんに耳を傾ける。

「いざ就きたい仕事を聞かれた時、なんも答えられなかった。留学さえできればよかったからね」

と笑うとビールを口に運ぶ。
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