それは夕立とともに
 前髪から滴る水が彼女の滑らかな輪郭をなぞり、パチリと見開かれた丸い瞳が真っ直ぐに俺を捉えていた。

 彼女は俺という先客が居るのを見て、ほんの一瞬だけ身を引いた。しかし再び滝に打たれるつもりは無いらしく、迷わずこの密室へと滑り込んできた。

「……びっ、くりしたぁ〜。栞里(しおり)ちゃんなに、偶然?」

「うん、そうみたい……」

 彼女、相崎(あいざき) 栞里(しおり)ちゃんは、俺より四つ年上の大学生だ。サイドの髪を耳に掛けて俯いている。

 ルーズに崩したポニーテールが濡れて、うなじがいつも以上に色っぽい。ゴクリと喉が鳴りそうな気がして、口元を押さえた。

 あまりにも見過ぎたせいか、不意に彼女と目が合った。

 栞里ちゃんの今日の格好は、袖に大きなフリルが付いた青いカットソーとオフホワイトのロングスカートだ。左肩から下げたトートバッグを大事そうに抱えている。とりあえず濡れて透ける素材と色ではない服装に一旦は安堵する。

 彼女の色気がどうであれ、びしょ濡れとなった今の状況では風邪を引くかもしれない、そう思い心配になった。
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