桔梗の花咲く庭
第2章
第1話
嫁いで初めての朝だというのに、完全に寝坊してしまった。
起き上がろうとして、自分の着る物がないことに気づく。
昨日の酒のせいか、頭はぼんやりとして、体は重くだるい。
脱ぎ散らかしていた花嫁衣装を、見栄え程度に畳み衝立で隠すと、こっそり廊下をのぞいた。
足音を忍ばせ、そろそろと進む。
味噌汁の香りと話し声が聞こえて、障子越しにそっと聞き耳を立てた。
「で、コトは首尾よく済ませたのですか?」
「朝からなんの話です」
「志乃さんはまだ起きてこないの?」
「母上、少しくらい寝かせてやってもよいではないですか」
「ちゃんとやることを、やっていればよいのです」
「分かっていますよ」
お義母さまと晋太郎さんの争う声だ。
お義母さまは大きなため息をついた。
「だいたい、昨日のアレはなんですか。あんなことではこの先、あの方とやって行くのに……」
「私には関係ありませんよ」
「あなたも同意したではないですか」
「知りませんよ。渋々だったのはご存じのはず。もはや私は、後悔すらしております」
「なんですって? 今更そのようなことを……」
「条件は先にお示ししたはずです。母上におかれましては、それは十分にご承知おきの上でのことと理解しておりますが」
「晋太郎!」
義母は声を荒げた。
これ以上話が長引くのを、盗み聞きしているのも申し訳ない。
いや、それよりもなにも、早く着替えたい……。
「あ、あの……」
障子越しに話しかける。
「お、おはようございます」
言い争う二人の声は、ピタリとおさまった。
「志乃さん? どうしたの、早くいらっしゃい」
少し怒ったような義母の声に、さらに縮こまる。
「いえ、あの……。着替えがどこにあるのか、分からなくて……」
急に開こうとする障子を、慌てて押さえつけた。
きっと晋太郎さんだ。
こじ開けようとしているのに、全力で抵抗する。
こんな肌着姿のところを、見られるわけにはいかない。
昨夜いきなり寝所に連れ込まれたせいで、先に送った嫁入り道具の置き場を知らされていない。
「……そ、そのようにつかんでいては、開けられないではないですか……」
「あ、開けないで……見ないでください……」
ぎりぎりと押し迫る危機に、全力で抵抗する。
それを抑える自分の腕は、ぷるぷると震えていた。
私も本気だが、向こうも本気だ。
「……い、一旦、部屋に戻りなさい……」
「は、はいっ!」
手を離し、廊下を駆け戻る。
頭まで布団にくるまって、とにかく姿を見られないようにした。
起き上がろうとして、自分の着る物がないことに気づく。
昨日の酒のせいか、頭はぼんやりとして、体は重くだるい。
脱ぎ散らかしていた花嫁衣装を、見栄え程度に畳み衝立で隠すと、こっそり廊下をのぞいた。
足音を忍ばせ、そろそろと進む。
味噌汁の香りと話し声が聞こえて、障子越しにそっと聞き耳を立てた。
「で、コトは首尾よく済ませたのですか?」
「朝からなんの話です」
「志乃さんはまだ起きてこないの?」
「母上、少しくらい寝かせてやってもよいではないですか」
「ちゃんとやることを、やっていればよいのです」
「分かっていますよ」
お義母さまと晋太郎さんの争う声だ。
お義母さまは大きなため息をついた。
「だいたい、昨日のアレはなんですか。あんなことではこの先、あの方とやって行くのに……」
「私には関係ありませんよ」
「あなたも同意したではないですか」
「知りませんよ。渋々だったのはご存じのはず。もはや私は、後悔すらしております」
「なんですって? 今更そのようなことを……」
「条件は先にお示ししたはずです。母上におかれましては、それは十分にご承知おきの上でのことと理解しておりますが」
「晋太郎!」
義母は声を荒げた。
これ以上話が長引くのを、盗み聞きしているのも申し訳ない。
いや、それよりもなにも、早く着替えたい……。
「あ、あの……」
障子越しに話しかける。
「お、おはようございます」
言い争う二人の声は、ピタリとおさまった。
「志乃さん? どうしたの、早くいらっしゃい」
少し怒ったような義母の声に、さらに縮こまる。
「いえ、あの……。着替えがどこにあるのか、分からなくて……」
急に開こうとする障子を、慌てて押さえつけた。
きっと晋太郎さんだ。
こじ開けようとしているのに、全力で抵抗する。
こんな肌着姿のところを、見られるわけにはいかない。
昨夜いきなり寝所に連れ込まれたせいで、先に送った嫁入り道具の置き場を知らされていない。
「……そ、そのようにつかんでいては、開けられないではないですか……」
「あ、開けないで……見ないでください……」
ぎりぎりと押し迫る危機に、全力で抵抗する。
それを抑える自分の腕は、ぷるぷると震えていた。
私も本気だが、向こうも本気だ。
「……い、一旦、部屋に戻りなさい……」
「は、はいっ!」
手を離し、廊下を駆け戻る。
頭まで布団にくるまって、とにかく姿を見られないようにした。